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「深層の恐竜」を読んで

個が群れなす

勢川びき 2000年7月9日

 なんとも嫌な感じの出だしだった。

 その嫌な感じがしばらく続く。何かに似ているなあ、この感じは。しばらく気がつかなかったが、漫画だった。「加治隆介の儀(弘兼憲史)」や「新・ゴーマニズム宣言(小林よしのり)」に似ている嫌悪感である。
 「世の中や世界の常識」を振り回し「人を殺しても何しても構わないのだ」という結論に無理やりにでも持っていく声高の人たち・・・いくら齢を重ねても嫌いである。
 そういう気持ちが悪い連中が「正論」を吐く、という冒頭は、作品であるということを忘れて作者である友人への疑念にもなっていった。しかし、その後、この本が扱う世界が見えてきて、友人の関係を失うことはなかった。しかし、真に迫っていたなあ。どうしようかと思ってしまった。
 小説を書くという行為の中で重要なものの一つは、いかに深く真実味を持たせるかということである。作者の壱岐氏は自分で構築したこの作品の世界にしばらく住んでみたのだろう。それぞれの人物、特に諸橋恭一とその関連人物たちには抱えている世界の深さが感じられる。
 ただ、主人公格の笹部京子はどうしても狂言回しの役を脱しきれていないが。

 推理小説は好きだがマニアであるとまでは自負できない私だが、このような完全犯罪は過去にあったのだろうか?「いっぱいあるよ」と言われそうな気もするし、全く新しいパターンであるような気もする。(類似作品をご存知でしたら教えてください。)

 とにかく一気に読ませる。展開も飽きさせない。推理小説に必要などんでん返しもちゃんとある。
 個人的な好みだが、文章も無駄な修飾がなくスルスルッとスピードを保ったまま読めて気持ちがいい。こういう文章は簡単なようでなかなか巡り合わない。

 現在、アメリカに在住して三年半が経つ私は、正直に言って益々日本が嫌いになっている。まあ、この感覚は麻疹(はしか)みたいなもので、またそのうちアメリカの嫌なところや日本の良いところが一杯目に付くようになるのだろうとは思ってはいるが。
 そのような状態にある私にとって本書は「ますます日本嫌い」になる後押しをしてくれてしまった。「個が群れなす日本」・・・なんとかならないのかなあ。  


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