勢川びき
2000年6月4日

No.46 「骨折り損と一歩前進」

 5月11日に受けた2回目の心臓手術の目的は「もしかしたら手術によって心臓の機能が改善して、肝臓移植を受けられるようになるかもしれない」ということでした。しかし、残念ながら、心臓の機能は手術前と大きく変わっていないことがほぼ確実となってきました。

 少し詳しく言うと、右心房/心室(体から血液が返ってきて肺に送り出す)の間の弁の漏れはかなり改良されたのですが、左心室(体に血液を送り出す)の容量拡大を手術で行ったものの、血液を送り出す強さは改善されなかったようです。もともとこの手術でよくなる可能性はさほど高くなかったので仕方ありませんが、江実は大変な思いをしたのに骨折り損でした。このままでは肝臓移植受けられません。
 でも、この手術にチャレンジしたこと自体はよかったよな、江実。たった8ヶ月の江実の人生はリスクとチャレンジの連続だよなあ。

 今後心臓の機能が劇的によくなるのも可能性はそれほど高くありません。でも、まだ望みを捨てる段階ではありません。まずは、今回の入院(4月4日から。今日で2ヶ月)のもともとの理由である「すぐ熱が出る」ことの原因をつきとめて問題を解消することが大事です。熱が出なくなれば、体重も増えるかもしれないし、体力がつけば心臓の機能も向上するかもしれません。

 5月11日の心臓手術の前は、色々調べたものの結局発熱の根本的な原因はわかりませんでした。そこで、昨日、急遽おなかを開けて肝臓まわりを観察する手術を行いました。江実は昨年10月28日に「葛西方式」という肝臓の手術を受けたので、何かが肝臓周りで起こっていて、それが原因になっている可能性があるため開腹手術を受けました。その結果、肝臓内に多くある胆管の一部に胆汁が溜まっていたことが分かりました(まだ直接担当医から話を聞けていないのでよく分からないけど)。手術によってこの問題は解消されたようです。

 心臓の手術の場合は、二日以上外部心臓補助装置をつけていたり、胸を閉じるまでに一週間以上かかったり、縫合の跡が盛り上がってすごく痛々しかったりして、かなり危険な感じがしますが、肝臓の手術は、幅6mmぐらいのテープが手術跡に貼ってあるだけで、数時間後には本人も目をさまして何事もなかったような雰囲気です。

 昨日の手術の後、呼吸がとても楽になったようです。一昨日までは呼吸数が早く、とても辛そうに息をしていました。なぜ肝臓の手術が呼吸を楽にしたのかは、もうひとつ納得できませんが、あるドクターが言うには胆汁の溜まりが解消されて、肺が肝臓からの圧迫を受けなくなったからではないか、とのことです。発熱がおさまり呼吸が楽になれば、呼吸や熱に費やしていたエネルギーが体力や体重増強に回るのでは、と期待しています。大きな「一歩前進」になる予感。

 今週、UCSFに6年勤めている日本人のドクターに会って話をする機会がありました。
 私が「とにかく江実にとっての選択肢を見逃すことだけはしたくない」という話をしました。江実の場合は心臓/肝臓の両方に大きな問題があり、双方を考慮した治療法の選択肢が狭くなりがちです。
 その先生が言うには、江実がもし日本で生まれたら、最初の手術を行える病院やドクターは日本には殆どいないだろう、ということでした。無茶苦茶複雑で手術が困難な症例だからです。この先生が言いたかったのは「UCSFは世界で最高クラスの小児心臓外科の病院なので、ここでの選択肢が世界で最高の選択肢ということになる。また、肝臓移植もトップレベル。アメリカは広いが、ある分野に関わるトップレベルの医者や技術がいくつかの大学病院に集まっていて、『ここにくれば最高の治療が受けられる』という環境ができている。日本は国土は狭いが、病院の技術は分散していて、こうはいかない」ということでした。
 たまたまサンフランシスコの近くに住んでいる幸運を改めて感じました。

 がんばれ、江実。体力がつけば、選択肢はまだ広がるぞ。

*写真は何事もなかったかのような穏やかな顔をしている江実(本日)。一昨日、久しぶりに笑顔を見せてくれました(カメラを持っていかず、残念!)。昨日肝臓手術を受けたところなので、今日は笑ってくれなかったけど。



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