勢川びき
2000年6月19日

No.48 「客観的判断と楽観的期待」

 江実に笑顔が戻ってきました。本当に久しぶりな気がします。

 6月14日に心臓の医者、肝移植の主治医、主幹看護婦など沢山の人を集めてミーティングがあり、妻と私が出席しました。

 基本的には、現状の説明の会議ですが、この現状を踏まえて、次のステップの方向性を話し合う目的もありました。

 内容はなかなか厳しいものです。
 心臓の状況は手術では大きくは改善されなかったので、2ヶ月前と同じ状況ということです。つまり、このまま心臓の機能はよくはならない可能性が高いということ、また、そのため肝臓移植も受けられないということです。心臓担当の医者は、もし自分が私たちの立場なら、なるべく長く江実を自宅で過ごさせてやる選択をする、とのことでした。2ヶ月前に言われた心臓と肝臓同時移植によってしか快復の可能性は低いが、その移植はあまりにリスクが大きいので、この心臓担当の医者個人としてはその選択はしたくないということです。

 これらのコメントは私にはちょっと意外に感じられました。やっと江実は笑うようになったし、先週に比べると体重の測定結果はむしろ減ってしまっているものの、見た感じが少しマシになってきているように感じていたからです。
 心臓の機能、特に心臓内の血流や圧力を正確に把握するためにはカテーテル検査が必要なのですが、それは5月の術後には行っていません。「どうして心臓が快復していない思うのか?そして、どうしてこれから肝臓移植を受けられるレベルまで快復するのは難しいと考えるのか」というようなことを聞いてみました。答えはちょっと意外なものでした。「細心の注意を払ってベストを尽くしているのに体重が増えないからだ」というものでした。
 たった一人の医者の意見ではなく、超一流の沢山の医者の統一見解ということです。これは真摯に受け止めるしかありません。
 心臓肝臓同時移植はリスクが高く、かつ、さすがのアメリカでも事例はあまりないようです。このUCSFでは少なくともできません。

 妻は目に涙を浮かべてこの話を聞いていました。私もさすがにちょっとの間言葉が出ずに考えてしまいましたが、すぐに次のステップの方向性を出しました。

 つまり、「心臓・肝臓同時移植の現状調査や行ってくれる可能性のある病院を探すこと」を行いながら、かつ、「江実は自力で体重を増やし体力をつけて肝臓だけの移植を受けられるレベルまでに快復するという期待を親としては決して捨てないこと」を並行して行おうというものです。同時移植については、その調査結果を見て考えればいいし、今すぐに決断すべきものではありませんので。

 江実自身は笑顔をよく見せるようになってきたし、とってもアクティブにおもちゃで遊ぶし、かなりご機嫌です。点滴もやっと取れて、今はミルク用のチューブと心拍数/呼吸数/酸素濃度を測るセンサーが体に貼られているだけになりました。

 大事な体重は落ち続けていましたが、昨日久しぶりに増加しました。1日ではなんとも言えませんが、期待しています。
 心臓担当医に、「そんなに体重増加が大切なら、ペースメーカーによる心拍数の最小値を手術前のレベルに変えたほうがいいのではないか?(今、設定が140-180, 昔は100-180だった) 心拍が早いとエネルギーを消費して体重が増えないのでは?」と聞くと、「good pointだ。検討する」とのことでした。素人のコメントに感心してどうするんだ、という気持ちと、やっぱり私たち両親だけが全ての情報/経緯を総合的に把握しているのだなあ、と改めて思い、江実への責任を再認識しました。
 ところがその後、もう五日も経つのに設定は変わっていません。どうやらペースメーカーの設定変更担当のスケジュールが取れないようです。設定が変われば体重の増加が顕著になってくる期待を密かに大きく持っています。

 頑張れ、江実。
 客観的/統計的に情報を把握して判断を下すけど、一方でむちゃくちゃ楽観的に考えてるよ。夏休みに入ったドクターを驚かせてやろうぜ、一ヶ月後にコロコロになった体を見せて。



次回へ/「がんばれ江実」へ/「BIKIBIKI」ホーム