勢川びき
2000年10月22日(日)

No.65 「大逆転の希望を失わず」

 10月19日にドクターたちとのミーティングがありました。
 ちゃんとしたミーティングは6月14日以来なので4ヶ月ぶりです。

 内容はあまり予想していなかった大変厳しいものでした。

 10月15日の夜に、肺から水を抜いた際に大量の出血もあり、血圧が低下していたことは知っていたのですが、その時、二分間ほど心臓が停止したそうです。このことはこのミーティングを持つまで知りませんでした。恐らく、当日にドクターからもらった電話で説明されたのでしょうが、私の英語力ではその部分は捉えられていませんでした。
 CRPと呼ばれる処置(心臓の上を手で押して蘇生させる処置)で、心臓は動き出し、一命を取り留めました。
 もし、今後心停止があれば、今度は戻ってくる可能性は低いだろうとのことです。

 ドクターから聞かれたのは「何かあった場合、どのくらい辛い、痛い思いをさせても江実を生かせ続けたいか」ということでした。9月22日に感染してICUに移って以来、呼吸器を使い続けざるを得ない状態が続いており、江実の肺は非常に傷ついていて、もう元に戻る可能性は非常に小さいとのことです。また、これまでの13ヶ月の間、UCSFの力を注いでも、江実はなかなか回復しないばかりか悪化していく方向で、UCSFとしても正直に言うとお手上げの状態のようです。単純に心臓や肝臓が悪いというだけでなく、現在の医学では計り知れない何かを江実は抱えているようだ、と小児科のドクターは言っていました。
 だから、「何かあった場合、どのくらい辛い、痛い思いをさせても江実を生かせ続けたいか」という質問となったようです。

 ミーティングには私と妻が出席しましたが、私だけがしゃべっていました。妻はさすがに一言も言葉を出せず、ただ首を縦にふったり横に振ったりしてYes、Noの意志表示だけはかろうじて行っていました。

 私はドクターにこう頼みました。「変に聞こえるかもしれないけど、『痛み』も江実の人生の一部です。江実は産まれてくる前から心臓に大きな問題があることがわかっていたのですが、産むことに決めました。その理由は江実にこの世を少しでも感じさせてやりたいという想いからでした。空気を吸わせてやりたい、光を感じさせてやりたい、笑わせてやりたい・・・。でも、まだほんの少ししか体験できていません。もし、江実が良くなって、何かまだ体験できていないことを体験できて、『産まれてきてよかった』と思える瞬間が来る可能性が少しでも残っているのなら、あらゆる手段を使ってでも江実を生かせてやってください。それが痛みや苦しみを伴ったとしても。」・・・もちろん、無茶苦茶な英語なのでどこまで伝わっているかわかりませんが。
 その私の依頼に対して、ドクターがひとつの確認の質問をしてきました。「もし、今度心停止した場合、蘇生処置は30分でやめていいか。30分以上経過すると、心臓が動き出したとしても、脳は死んでしまう。」
 これに対しては私はとても明確に答えました。「30分努力していただければ十分だ。脳死になってまで生かし続けることはしなくてよい。なぜなら、江実自身、脳死者からの臓器提供を待つという立場であるのだから。」

 親としてはいくら現実のデータや状況が厳しくても希望だけは捨てたくありません。でも、むやみに理由もなく「信じる」というようなこともしたくありません。
 今回のミーティングでは、本当に厳しい状況を説明されました。「いつ死んでもおかしくない状況であるということをしっかりと認識して欲しい」ということが今回の大きな目的だったようです。江実が産まれてから13ヶ月、「いつ死んでもおかしくない」といつも思っていましたが、今回の最後通告的な内容はやはり結構重いものです。

 また、ドクターは、これまでの多くの薬や今回のような感染で江実の脳がダメージを受けている可能性があるとも言っていました。今週は、殆ど眠っていて、たまに起きても目を開けているだけで、私の顔を認識しているような意識ある視線がない場合が多くなりました。でも、時々、はっきり意識のある目をして、少しおもちゃで遊んだりもします。もちろん普通の子供に比べれば大きく成長が遅れていることは確かですが、まだ江実の存在はしっかり感じることができます。
 呼吸器を外せる可能性も殆どなく、心臓/肝臓の両方の移植が必要な状態で、脳の発達にも問題がでてきてもおかしくない・・・こういうことを考えたとき、何かあったら本当に蘇生処置をして痛い思いをさせるのがいいことなのだろうか、そのまま逝かせてやる方がいいのではないか・・・ドクターの悩みはストレートに言うとこういうことです。

 私の考えははっきりしています。もうちょっと頑張ってみようよ。今、ここで「では、もういいです」とはしたくない。もし、状況が悪い状態で固まって安定してしまえば、逝かせてやることも考えるかもしれない。でも、もうちょっとあがいてみようよ。いいよな、江実。親のエゴであることは分かっているけど、つきあってね。
 江実、君の笑顔をもう一度みたい。
 江実、君の声をもう一度聞きたい。
 江実、君においしいという感触を味あわせてやりたい。

 今日は、最近になく状態が安定していて、顔や肩の腫れも少しマシで、久しぶりに両目をしっかり開けて私たち夫婦を交互に見たりしていました。
 生きているね、江実。
 よくなってドクターたちを驚かそうね。

 がんばれ江実。

*写真は本日撮影。とっても腫れていておむすびみたいですが、これでも大分マシです。(頭にあるのは看護婦さん自作のハートの模様入りリボン)



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