異常気象

勢川びき
1998年5月

 この二、三年、地球規模の異常気象が続いていた。
 砂漠に大雨が降り、赤道直下に雹が降り、雪国に台風が来た。
 この異常気象に、一般の人々は恐れながらも「まあ、そんなこともあるかもね」と軽く考えていた。
 しかし、X組織だけは受け止め方が深刻だった。X組織の有力者が異常気象の災害によって次から次へとその命を落としたり、財産を失っていたからだ。
 先日もA地方で降った大雨で、景観の素晴らしい海沿いの崖の上にあったX組織のナンバー2のM氏の家が崖ごと崩れた。また、その同じ週にも、別の地域で、これまで一度も体験したことがなかった竜巻に襲われ、今は現役から退いた元X組織の有力者の邸宅がバラバラになった。
 X組織とは-----
    誰もがその存在を確信しながらも、一度も公になったことのない秘密の組織である。平易な言葉でいうと「金持ちによる金持ちのための組織」である。この世の経済の動きは、全てこのX組織の手中にあった。世界中の株式市場の動向も、武器が大量に売買される地域戦争の勃発も、全てX組織がコントロールしていた。「金持ちに金が入ってくる仕組み」を長年にわたって維持していた。
 X組織に入会するための資格はシンプルである。とにかく極端な金持ちであることである。信じられない額の財産を作れば、どこからともなくX組織が現われ、入会の勧誘をする。金持ち同志はすぐに意気投合する。より一層金を儲けるために。
 そのX組織のメンバーが狙われたように異常気象によって被害を被っていた。
 重苦しい雰囲気となったX組織の特別会議での席上でN氏が半分パニックになりながら叫んだ。
 「これは、単なる異常気象か!神が私たち金持ちに罰を与えようとしているのではないか!」
 金しかこれまで信じたことがなかった他のメンバーは、どう反応していいのか分からなかったが、この会議の席に「ナンバー4のO氏がクルージングの最中に大波に会い行方不明になった」という情報が入り、とにかく「神」とやらにお願いをしよう、ということになった。もちろん金の力を使って。

 X組織は巨大な資金力を生かし、世界に点在している本物と思われる宗教家を5人見つけ出し契約した。本物とは、神とお話ができる、ということである。
 この5人の宗教家は、X組織の願いを神に届けるため同時に祈りだした。

 さて、神は、いつものように雲の上に寝そべっていた。
「ん?なんだぁ?いつもより地上からのお願いがうるさいなあ。なになに---『これ以上金持ちの私たちをイジメないで下さい』だって?なんのことだ?別に何も意図なんかしてないぞ。ふーむ、すごい金を使って私にコンタクトしてきたな。もったいない。単なる確率の問題なのに」

 ---もともと金持ちの彼らは「美しく気候が穏やかな場所」に豪邸を建てていたので、気候が「穏やか」でなくなった途端、「美しい場所」が「崖や水際などの危険な場所」と化して、災害に見舞われる確率がほんの少し高くなってはいたが。

[おしまい]


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