にじゃBOX WWW版 98.8.15


お知らせ

ケメの会社のPickles*のホームページができました。とってもかわいいベアやワンちゃんが満載されています。是非見にいってね。
(プリントのためにもURLを書いておきますね。 http://www.kisweb.ne.jp/personal/pickles/ です。)

目次


ケアーマネージャーって知ってますか? [きよ]


ケアーマネージャーって知ってますか?

   つい先日、大阪の歯科衛生士の友人から電話があって「ケアーマネジャーの試験が9 月にあるらしいから調べてみ。」と言われました。
 平成12年から、高齢化の進展に伴って起る、寝たきりや痴呆老人の方々の増加に対 する介護保険制度が始まりますが、それら要介護者の受けるべき治療の内容を立案す るのが介護支援専門員、いわゆるケアーマネージャということです。
 彼女が言うには「ケアーマネージャーは介護を必要とする人間とそれら種々のサービ スを実施する事業所との仲介をする准公務員的立場になる職種やから、これからを考 えればきっとおもしろいから無視する手はないで!」と云うのです。また「府政便り 」に受験資格は保健医療福祉の各分野で5年以上の実務経験となっているから、歯科 医院勤務10年はその資格が十分にあるということらしいです。

 なるほど、それはおいしそうな話やないかと、とりあえずは調べてみようとインター ネットで「介護支援専門員」を検索した結果、 「介護保健情報」 という形でダウンロ ード出来ました。
 次に挙げるのはその中から、「創設のねらい」と書いてある一説が 面白かったので抜き出しました。

『高齢者介護に関する現行の制度は、医療と福祉の縦割りの制度となっており、サー ビスが自由に選択 できない、サービス利用時の負担に不公平が生じている、介護を 理由とする長期入院(いわゆる社会的入院)等医療サービスが不適切に利用されてい る等の問題が指摘されています。介護保険制度は、老人福祉と老人医療に分かれてい る高齢者の介護に関する制度を再編成し、利用しやすく公平で効率的な社会的支援シ ステムを構築するものです。』

 つまり、現行の制度では従来の介護医療や福祉を行う 機関の持つ権益の壁に邪魔されて、サービスに一貫性が持てないので新しく介護支援 システムを作り、その介護サービスのプランを作成するのが、今まで横のつながりの なかった保健、医療、福祉の中から選ばれた実務経験5年以上のケアーマネージャー と云う訳です。
 要介護者に最も必要なケアサービスを最短距離で実行する、その為に は実に良い制度であると言う事なんですが、問題はその費用です。銭ですわ。平成1 2年で要介護者280万人、そしてその介護にかかる総費用は4兆2千億円。参考ま でに私が働いている歯科業界、これが年間3兆円と云われています。ですから今回の 介護保健制度の規模が計れると思いますが、さてこの金をどこから捻出するのかと云 うと、ばっちし私達は当確と云う事になります。つまり40歳以上の国民は全て被保 険者として月々2500円ずつ払う事になる。全ての40歳以上の人がです。そう云 えば何年か前にニュースでそんな事言ってたな〜って思い出しましたけど、今この不 況風が吹き荒れている中で、日本の金融システム不安に対する公的資金の問題で、い ずれ税金を搾り取られる我々にとって、月々2500円は見過ごす事のできない金額 に思えるのです。

  あっ・・最後に、私 のケアーマネージャー試験の事ですが、県庁の方に電話で尋ねてみました。歯科の分 野では歯科医師、歯科衛生士だけで技工士、助手は資格なしでした。残念でした。で すから、当分この仕事で頑張ります。

* イラスト by きよ

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きよとびきのよもやまぐたぐた [第2回]


BIKI:不況不況ゆうとるけど、歯医者の業界はどないや?歯が痛いのはがまんで けへんやろ。歯科技工士の代金がディスカウントされる、なんちゅうことはあるんか いな?

KIYO:歯科医療自体のディスカウントはこの御時世やから、したいやろうけ どでけへんのとちゃうか。薬屋が「在庫処分で50%OFF」とか、医者が「 今日 のレントゲンは映りが悪いから安しとくわ!」ってな事を患者に言い出したら、 やっぱり恐いわ。患者さんにしても定期検査に病院に行って「今日は調子が良いから、簡単に診といて」と云う訳にはいけへん。とにかく料金以上にちゃんと診て!と云うところが本音やろ。
せやから、歯科では口の中の治療はディスカウント せえへん。もっと患者さんに分かりやすいところでディスカウントする訳や。それは 歯を治療した後に入れるもの、または歯を抜いた後に入れるもの、つまり義歯やクラ ウンブリッジと云った技工物で安くすると云う事はあるわ。それにしても歯医者さ んはしぶといから、保健治療では安くする事はまあないやろけど、もし値段を負けて くれるとしたら自由診療の分野だけやろ。

BIKI:確かに保険が絡んどるとディスカウントはないやろな。なんか、この世界も 今の日本を象徴しとるね。「歯医者としての既得権の確保」や「保険や政府の規制に 守られてぬくぬく」みたいな。まあ、医者自体はすっごい大事な職業やから、ちゃ んと金もらうのはかまわへん。でも、歯医者は医者の中では、命に滅多に関わらへ んし、すっごい「技術」の世界やから製造業なみの「品質」と「値段」の闘いが持 ち込まれてもいいんとちゃうか?

KIYO:歯医者さんだって「死亡診断書」は書けるんやで。でも、歯科診療所で死人 がでたら多分大騒ぎやろな。
人間は食物から栄養をとって生きていますから、まずそれを噛 み砕く第一の消化機関の管理をしていると考えれば、やはり歯医者さんは大事やで 。口の中でうまく食物が噛めていないと内蔵に負担がかかるし、また歯並びが悪 いと顎関節に影響を及ぼして首から背中や腰の筋肉のバランスが崩れ、背骨だってあ らぬ方向に曲がってしまうんや。顎関節は左右二つで一つと云う身体の中で唯一の関節部なんやで。この二つの部分を同時にうまく動かす為にその周りの筋肉は実に良く頑張っている訳やけど、このバランスを崩す物があるとしたらそれは歯並びや。そやからその辺の管理を甘く見ていると二次的な病気に繋がり悪い方向に行ってしまう。この様に考えれば健康管理に歯医者さんに行かなあかんことになる。
う〜ん、あんまり説得力ないかな、やはり歯医者は「噛めてナンボ」の世界やろね。 でもね、僕は技工士やから思うんやけど良い品質の入れ歯って患者さん分からへんの んとちゃうやろか?

BIKI:わしはまだ入れ歯しとらんからよう分からん。

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[Short Short]

果てしなき雑草

 勢川びき

 泰三はいつものように静かに床を抜け出した。隣の部屋では妻の啓子が静かに寝息を立てているはずだ。まだ朝は早い。台所へ行き、昨夜セットした炊飯器の表示を確かめる。ちゃんと米は炊けている。好きな柴漬けを添えて握り飯を作る。これを抱えて庭に出る。
 「さてと」
 気合を入れるように自分に声をかける。これも毎日のことだ。脇には握り飯を入れたケースと厚めの本を抱えている。
 「雑草大百科事典」
 泰三の家の庭は広い。広いだけではない。山の斜面に通じているため、起伏も大きい。その庭に多くの雑草が生えている。いわゆる庭木や鑑賞用の花は殆どない。雑草がところ狭しと生えているだけだ。この庭が泰三の全てである。毎日の殆どの時間をこの庭で過す。
 「おっ、これは---」  泰三は座り込み、小さな雑草を観察しだした。じっくり見る。嘗め回すように見る。少し離れたり、また異様に近づいたりして見る。そして時々「うーん」と言いながら辞典をパラパラと捲る。
 「こいつか?」
 泰三は草の葉を千切り、匂いを嗅いだ。  「ぐ、たまらん。臭い。これはヤイトバナだな。別名『ヘクソカズラ(屁糞葛)』」
 そう言って、泰三は辞典のヤイトバナの項に丸い印を付けた。白いガクに鮮やかな紫の中心が映える。
 「朝飯を食ってからにすべきだったな。この草は。食欲が無くなった」
泰三は再びゆっくりと庭を散策しだした。そして「おっ、これは」と言ってしゃがみ込む。

 泰三が定年退職したのは三年前。それまで仕事一筋に生き、やっとのことで手に入れたのがこの家だった。成功したとは言えないサラリーマン生活で得られたこの田舎の家は、土地は広いものの、庭は今にも崩れそうな崖で囲まれていた。馬鹿がつくほど正直だけが取柄だった泰三は騙されたのだった。契約を結んだ時にはこの崖は造成されるはずだった。騙されたと分かった時、啓子は改めて泰三を軽蔑し、それ以来殆ど口もきかなくなってしまった。退職金を使い果たして手に入れたこの家で泰三は余生を費やすしかなかった。出かけると金がかかる。そうして、仕方なく庭いじりを始めたのだった。しかし、やはり金がないと庭いじりも限界がある。いつのころか、庭にどんどんと生える雑草を抜く代わりに、その名前に興味を持った。そして、この分厚い辞典を古本屋で手にし、新しい雑草を見つけ、辞典に印をつけることを生きがいにするようになった。

 限られた生きがい。『この庭の全ての雑草の名前が分かれば俺も人生の幕引きをしよう。』当初はそう考えていた。絶望がその根底を流れていたこの思い込みも、日が経つにつれて妙な感覚へと変わっていった。それは『もしかしたら俺は生かされているのではないか』という感覚だった。一年もすれば底をつくと思っていた「新しい雑草探し」がどうしても終わらないのだ。次から次へと新しい雑草が生えてくる。最近は、どうやらまだ日本には生息していないはずの草まで見つかるようになってきた。
 『まだ俺は生きなければならないぞ、と神様が言っているのかもしれない』泰三はそう信じるようになってきていた。

 今日も一日庭で過した。もう名前が分かっている雑草たちも旧知の友人のような気がして話しかけてしまう。
 夕飯は啓子と無言のまま過すが、それも今では苦痛ではなくなった。

 その夜---
 昼間は庭を散策して過すので、夜は深い眠りに落ちるのが普通なのだが、この日は何故か眠れなかった。じっとしていると益々目が冴えてくる。その内、庭の方でカサ、カサと音がすることに気が付いた。
 泰三はそっと起きだし、カーテンの隙間から庭を覗いた。月夜だった。
 泰三の友人たちの雑草に囲まれて女が立っている。女は奇妙は動きで手を上下に振って踊っているように見える。月の明かりで白黒の強いコントラストとなった世界の中で女が踊っている。泰三は一瞬ゾッとした。が、すぐにそれが啓子であることに気が付いた。よく見ると啓子は抱えた小さな箱から沢山の種を庭に撒いているのだった。  「啓子---」
 泰三はじーんとした。どんどん生える新しい雑草は実は啓子がこうやって種を撒いていたのだ。
 泰三は静かに窓を離れ床に戻った。とても暖かい気持ちになって。「やはり俺は生かされていたのだな」泰三は気持ち良く夢の世界に引きずりこまれた。

 啓子は、やっと今日の種まきを終えた。月を見上げながらつぶやいた。
 「もういい加減にして欲しいものだわ。雑草の種を手に入れるのも大変なのよ。あんなやつに一日中家の中にいられることを考えると、このくらいの苦労は仕方ないけど」

(おわり)

*写真は夏休みにドライブしたカーメル(昔クリントイーストウッドが市長をしていたところ。海沿いにある軽井沢みたいなおしゃれな街)のお店「Out of Blue」のぬいぐるみたちです。けめ、かわいいでしょ?

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